The Air of Ishigaki について
八重山の大自然よりインスピレーションを受け、7年の月日をかけて制作した作品。植物の香りを 手で抽出し、その過程で失われる香りを適宜フレグランスで補いました。「抽出」と「調香」の ふたつの技術を組み合わせる独自の手法で作っています。空間臭をマスクする既存のアロマディフューザーとは趣旨が異なり、ほのかに香ります。まるでそこにある花をリアルな空間で嗅いでいるかのように錯覚する、そんな体験をしてもらえるよう作りました。
香りの調香は台湾人インターン生Chao-Yu Yangが主に担当。日々ともにお花のハンティングに出 かけながら、無心にコラボレーションを楽しみました。
私の本業は嗅覚芸術の展示作家であり、作品販売は滅多にやりません。この作品も純粋な好奇心から八重山の香りを探究する目的で作った作品ですので、制作数は各5~10本です。(pepe.okinawaにてお求めいただけます。)
7年の歳月がかかったのには理由があります。「この花は今ならあそこに行けば咲いてる」という経験値はすぐには得られなかったことも理由のひとつでしたが、主な理由は「この花を摘んで、私が香りを抽出して実用化してしまったら、乱獲に至り、この島からこの花が消えてしまうかもしれない」という配慮からでした。実際にノニが健康食品としてブームになったときは、島からノニの実が消えたと聞きます。
この配慮は、今ではビジネス用語であるSDGという言葉で簡単に表現することができるかもしれません。良い時代になりました。私もビジネスチャンスを狙えたかもしれないのに敢えて手をつけなかった素材は、実はたくさんあります。
私自身、香りを抽出する様々な技術を持つため、島内外から「島の香りを売って欲しい」とたくさんいらっしゃるのです。その度に、「作れなくもないけど、精油というものは自然界からほんのわずかしか取れない。天然の香りは本来は鳥や虫たちのものであって、安易に人間が搾取すべきものではない」ことを説き続けてきました。現代の大掛かりな蒸留法で得られる「精油」というものは、数トンの植物から、ほんの数十〜百グラムくらいしか得られないのです。とても非効率的なのです。
そこでわたしは、ほんの少しの草花から、古典的な方法で手間ひまかけて香りを抽出して、なるべくその自然な、仄かな香りを活かす「見せ方」を考えました。他の誰もやっていない、完全にオリジナルな手法です。その結果が、この作品です。実際に抽出した花も、瓶にそのまま詰めて見せてしまいます。
空間全体を消臭する普通のディフューザーとは異なります。あたかもそこに花が咲いているかのように、ふんわり香ります。ディフューザーの意味や体験方法の常識を更新するという点において、これはプロダクトというよりは嗅覚アートの作品なのです。
今後も新たな探究を続けたいと思って います。
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