香といえば沈、沈といえば香

「香といえば沈、沈といえば香」

日本の香料研究のパイオニアともいえる山田憲太郎氏が述べていたこの言葉。

沈香を嗅ぐとかならず思い出します。

沈香は遊郭の匂いそのものでもありました。

伏籠の中で焚き、その上に着物を被せて匂いを移したり、髪に匂いを移したり。

さらには布団の中で焚いて事に及んだり。

沈香は、遊女が巧みに操った、助情の道具でした。


今回の展覧会でも、香木そのものを焚ければ良いのですが、そうなるといつも誰かが火加減を見てなければいけないので、あまり合理的ではない。

香木を交換したりする面倒もできる限り避けたい。

沈香の精油というのは商品として市場に存在するので、その利用も検討してみました。

けれどもおそらく蒸溜法で採取されているものなので、焚かれた沈香の香気とのズレが気になる。


できる限り自然に近い沈香の匂いを、その空気・空間を、いつでもお客さんに嗅いでもらえるような状況を作りたい。

そこで、いろいろと試行錯誤。

乱沈香10gを轢き、粉状にしました。こんなに材料費の高くつくものの抽出は初めてで、緊張します。









自己流なのであまり濃度は高くできず、10g の沈香から 50ml 採取しました。

抽出した香気は驚くことに、確実に沈香のそれです。

日本のその道の方々に私の抽出した沈香サンプルを御渡しし、嗅いでいただいたところ、思いのほか沈香らしい性質が明確に表われている・・・と感心されてました。

ということで、かなりの自己流でやってるわりには、自分のカンに裏切られなかった、と自信をつけて調子に乗ってます(笑)

敢えて述べておくと、私がすごい大発見をしたというわけではないのです。その道の基礎研究をやってる方ならとうに実験済みであろう方法だからです。

けれどもこうした沈香absoluteが市場に出回っていないのは、おそらく樹脂分がベタベタしすぎていて商品化に向かないとか、採算が合わないとか、そんな商業的な理由からだと思います。

でもどんどん使っちゃいますよ〜、私は。

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