ロッテルダム美術学校での授業
先週、代理講師として、ロッテルダム美術学校の授業を頼まれました。
これまでにもこの学校で2回、ゲスト・レクチャーをしたことがありますが、今回は私なりに授業らしい授業を組み立ててみました。
最近の美術学校は女子率が多いのですね。90%女子学生でした。
そのためか匂いや香りのテーマには興味津々。
学校側に嗅覚の領域も取り入れたいという意識があり、授業が好評だったこともあり、今後も継続して講師やワークショップを頼まれることになりそうです。
内容は簡単に要約すると以下の通り。
イントロダクション
*まず香辛料のひとつ、カルダモンCardamonを嗅いでみる。
どんなにおいがするか?
「いいにおい」以上の表現をしてみよう。
思い浮かぶ情景や昔の思い出でもいい。
〜に似た匂い、色、音などに例えた表現でもいい。
(生徒からのコメント:オレンジやレモングラス、刈草などが思い浮かぶ)
*次にカレー用スパイスミックスMasalaを嗅いでみる。
Masalaはいわばスパイスのカクテル。
先に嗅いだカルダモンも入っているが、それが嗅ぎわけられるだろうか。
カルダモンの他には、コリアンダー・シード、ローリエ、ジンジャー、ブラック・ペッパー、ターメリックなどの様々な香辛料が入っている。
スパイス同士のバランスがとられているのが、Masala。
カルダモンの役割も強すぎず弱すぎず。
嗅覚と匂いについての概論
*鼻は騙されやすい感覚器官でもある。
年齢、性差によって能力も嗜好も違う。
嗅ぐ環境によっても左右される。
*市販の香水には200種類もの香料が使われており、それだけの深みを楽しむ能力が私たちの鼻にはある。
*匂いには時間軸がある。調香師はその特徴を使って、トップノート・ミドルノート・ベースノートを意図した時間に配置し、「作曲」する。
*嗅覚は感情や記憶と強く結びついた器官でもある。
*視覚は光の波長を、聴覚は空気の振動を信号として受け取る。
嗅覚は、化学物質の形状を信号として受け取ると考えられている。(異論もある)
同じように化学物質を介在する味覚も、嗅覚と切り離せない存在。
*料理する度に、それを食べる度に鼻に意識を向けて欲しい。
スープを調理するとき。蓋を開けて煮た時と閉めて煮たときでは、味が違うはず。
食べる時も鼻をつまんで食べた時とそうでないときと、味が違うはず。
私自身の研究内容について
絵の具やキャンバスのように、匂いをアートの媒体として使えないかという研究をしている。
匂いを抽出したり再現したりする行為をデータ操作に例えると、
save(保存) - compress(凝縮) - release(再生)
[save]
匂いをもとの固体から取り出し、ある媒体にコピーし、保存する研究。
各国の様々な調理法を参考にすることも多い。
[compress]
抽出物を濃縮させると保存が長く効くので、そのための研究。
[release]
どのように再生させるかによって使う道具や抽出手法が決まるので、そのための研究。
現在のテーマ:文化を体験する手法としての匂い
匂い物質が揮発しやすい性質から、匂いや匂いへの嗜好が古来より地域に密着したものであった点に注目して。
嗅いでもらったエキストラクトの例
()内は学生からのコメント
質疑応答
Q. 学生のとき、何を専攻したのか。
A. 大学で広く情報学やインターフェースについて学んだ。プログラミング、人間の五感の知覚、コミュニケーション、メディア・アートについても学んだ。嗅覚も領域としては入っていたが、ほとんど独学。
これまでにもこの学校で2回、ゲスト・レクチャーをしたことがありますが、今回は私なりに授業らしい授業を組み立ててみました。
最近の美術学校は女子率が多いのですね。90%女子学生でした。
そのためか匂いや香りのテーマには興味津々。
学校側に嗅覚の領域も取り入れたいという意識があり、授業が好評だったこともあり、今後も継続して講師やワークショップを頼まれることになりそうです。
内容は簡単に要約すると以下の通り。
イントロダクション
*まず香辛料のひとつ、カルダモンCardamonを嗅いでみる。
どんなにおいがするか?
「いいにおい」以上の表現をしてみよう。
思い浮かぶ情景や昔の思い出でもいい。
〜に似た匂い、色、音などに例えた表現でもいい。
(生徒からのコメント:オレンジやレモングラス、刈草などが思い浮かぶ)
*次にカレー用スパイスミックスMasalaを嗅いでみる。
Masalaはいわばスパイスのカクテル。
先に嗅いだカルダモンも入っているが、それが嗅ぎわけられるだろうか。
カルダモンの他には、コリアンダー・シード、ローリエ、ジンジャー、ブラック・ペッパー、ターメリックなどの様々な香辛料が入っている。
スパイス同士のバランスがとられているのが、Masala。
カルダモンの役割も強すぎず弱すぎず。
嗅覚と匂いについての概論
*鼻は騙されやすい感覚器官でもある。
年齢、性差によって能力も嗜好も違う。
嗅ぐ環境によっても左右される。
*市販の香水には200種類もの香料が使われており、それだけの深みを楽しむ能力が私たちの鼻にはある。
*匂いには時間軸がある。調香師はその特徴を使って、トップノート・ミドルノート・ベースノートを意図した時間に配置し、「作曲」する。
*嗅覚は感情や記憶と強く結びついた器官でもある。
*視覚は光の波長を、聴覚は空気の振動を信号として受け取る。
嗅覚は、化学物質の形状を信号として受け取ると考えられている。(異論もある)
同じように化学物質を介在する味覚も、嗅覚と切り離せない存在。
*料理する度に、それを食べる度に鼻に意識を向けて欲しい。
スープを調理するとき。蓋を開けて煮た時と閉めて煮たときでは、味が違うはず。
食べる時も鼻をつまんで食べた時とそうでないときと、味が違うはず。
私自身の研究内容について
絵の具やキャンバスのように、匂いをアートの媒体として使えないかという研究をしている。
匂いを抽出したり再現したりする行為をデータ操作に例えると、
save(保存) - compress(凝縮) - release(再生)
[save]
匂いをもとの固体から取り出し、ある媒体にコピーし、保存する研究。
- 蒸留
- エキストラクターでの抽出
- アルコール漬け
- オイル漬け
- 塩漬け/パウダー漬け
- 溶剤抽出
- アンフルラージュ(油脂法)
各国の様々な調理法を参考にすることも多い。
- イタリア料理ではニンニクを弱火で炒め、香りをオイルに「コピー」してからニンニクを取り出し、具材を炒める。
- 中華料理でも生姜と鷹の爪を同じように「コピー」してから、具材を炒める。
- イタリア系スーパーにずらっと並ぶ「ニンニク漬けのオリーブ油」「ローズマリー漬けのオリーブ油」「スパイス漬けの酢」
- ピクルスや漬け物、果物リキュール
[compress]
抽出物を濃縮させると保存が長く効くので、そのための研究。
- 保存料
- 匂い成分と媒体(アルコールなど)を分離させたりすることで凝縮させる
[release]
どのように再生させるかによって使う道具や抽出手法が決まるので、そのための研究。
- 香水瓶
- アトマイザー(噴射器)
- 空間的な薫香
- 印刷物ースクラッチして匂うもの
- 匂い玉 など
現在のテーマ:文化を体験する手法としての匂い
匂い物質が揮発しやすい性質から、匂いや匂いへの嗜好が古来より地域に密着したものであった点に注目して。
嗅いでもらったエキストラクトの例
()内は学生からのコメント
- 味噌汁(寿司屋)
- 桜
- 墨汁 (土の匂い)
- 正露丸(スモーク・ハム)
- 干し草(肥料、馬、草原)
- チーズ
- 煮込み芽キャベツ
- 秋の落ち葉
- スペキュラース・ハーブミックス
- シンタクラース祭のお菓子(Taaitaai)
- ヒヤシンス(臭い、ユリの花)
質疑応答
Q. 学生のとき、何を専攻したのか。
A. 大学で広く情報学やインターフェースについて学んだ。プログラミング、人間の五感の知覚、コミュニケーション、メディア・アートについても学んだ。嗅覚も領域としては入っていたが、ほとんど独学。
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