OLFACTOSCAPE - deconstructing Chanel No. 5 - 制作ノート

■2月中旬


作品制作はまず、シャネル5番データ集めから始まりました。「そんな、調香データが公開されているの?」とみんなに驚かれますが、実はいろんなバージョンのシャネル5番が存在するんです。新入社員のパフューマーが調香を学ぶときに、よく使われる模範香水なのです。この香水は、現代香水の基礎として、スターティング・ポイントに位置づけられており、そこからあまり外れないようにアレンジが加わり、いろんな香水が世の中に出て来るというわけです。もちろん、ここで話しているデータが、実際のプロダクトに使われているデータと同じであるわけがありませんので、御心配なく(笑)。

そうだ、確かある嗅覚のエキスパートが、プレゼンでそのようなデータを使っていたような。メールを送ると、すぐ「返答」が送られてきました。(ある本の引用だったらしく、偶然にも私の本棚にもありました。)

それをもとに、私を常にサポートしてくれているイギリスの高級フレーバーメーカー、 Omega Ingredients の社長に連絡。香料を20種類ほどリクエストしました。「それ、おもしろいね!」と、今回もスポンサーしていただきました。頭が下がる思いです。

■3/12

香料が届いきました。その日は、V2でカーテンを吊るする作業をしていたので、帰ってから個々の香料を嗅ぎ、スプレー詰めするために香料の濃度を調整しました。ある香料が強すぎて、他を凌いでしまっては、残念ですからね。



■3/13

デモの2日前。実際にカーテンにスプレーしてみます。緊張する瞬間です。果たして、私の「机上の空論」が現実のものになるかどうか。1回目は、なんだか違う、シャネル5番とは違う匂いがしました。(たぶん前バージョンに使ったときの香料が僅かに残っていたのでしょう。)スプレーしてから1分後、5分後、10分後・・・と時間を計りながら香りのチェックをします。どうも理想の香りが得られない。気分転換に、布にスチーム・アイロンをかけて「ピシッ」と見えるようにし(これがなかなか根気の要る作業。)、スタッフと共に照明を様々に試しました。


インスタレーション単体だけの時、誰があんなにキレイなものに変身すると想像したでしょうか。照明次第で、いかようにも変化する作品だと、そのときに発見したのです。シャネル5番は「北極のような」ピーンと張りつめた香りを表現しているといわれています。なので、太陽光的なスポットと、対照的な冷たいブルーの光を混ぜてみました。空間の中に人が立つと、ぼうっとブルーに浮かび上がるように見えるようになりました。しかも、インスタレーションの見せかけの重力を無くすため、床に最大限の明かりを取り入れます。私はこれを勝手に、UFOエフェクトと呼んでいますが(笑)。

さて、照明がうまくいったところで、2回目のスプレー。1分後、5分後、10分後・・・うん、シャネル5番だ! そう思えた瞬間は、もう体中から歓びがわき上がってきました。嬉しくて、体が浮きそう! そんなふうに思えたこと、みなさんはありませんか? まさにそんな感じだったんです。

あまりに嬉しくて、その後のチェックは省略し(というか緊張感が切れて鼻が効かなくなってきた)、春の陽射しの中に出て、お気に入りのカフェでひとりで祝杯をあげました。そのほんのちょっと前まで、全てわたしの頭の中だけに存在していた作品が、一瞬にして現実化したのです。モノゴトは、折紙みたいだな、と思いました。All comes together in one moment.  その瞬間まで、誰が何を言おうと自分を信じて、辛抱強く待てた人のみが得られる金の塊・・・。これまでも学んで来たことですが、あらためて確認しました。

余談ですが、その1時間後にまた別なプロジェクトに関する嬉しいお知らせが舞い込み、その晩はあまりに嬉しい事が重なり、もういっぱいいっぱいでした。

■3/14 & 3/15昼
イベント前日と当日は、セットアップも終わって余裕があったので、まったく他の仕事などをして過ごしました。当日は、ベビーシッターさんと息子と晩ゴハンを食べてから、会場に向いました。開始は20:00なので、オランダではカクテルタイム。オランダでは18:00や19:00に始まるイベントは一切ありません。20時以降が大人な余裕のための時間として確保されているのです。(残業する人なんていませんし、そんな時間に人を残業させたりしたら、ちょっと変な会社と見られるかも。)

■OLFACTOSCAPEの産みの父

このOLFACTOSCAPEを産み出すきっかけを与えてくれたのが、ある大阪の若いキュレーター、岡本英昭さんでした。彼が運営しているのは、小さなギャラリー機能のついた、駆け出しのセレクトショップ inframince アンフラマンス。もともとが化粧品会社なので、肌や香りなど、五感への感度の高いプロダクトをプロデュースしています。そこのこけら落としとして、熱心に私の個展をプロデュースしてくれました。そして協力してくれた皆さんの努力の結晶がこの OLFACTOSCAPE なのです。彼らとの対話無しには成立し得なかった作品なので、inframince アンフラマンスさんにアプローズ!

   

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