OLFACTOSCAPE - deconstructing Chanel No. 5 - 発表!


先日、ロッテルダムのメディア・アート系スペース、V2_ にて嗅覚に関するアート・イベント Smell This! があり、デモンストレーターとして発表してきました。




デモンストレーションとして展示したのが、OLFACTOSCAPE という2010年の作品。布で作られた直径3mの空間で、「空間における匂いのコンポジション」をテーマにしています。タイトルの" OLFACTOSCAPE" は、OLFACTO = 嗅覚SCAPE = あるシーン、この2つの単語で作った造語です。

今回は、サブテーマとして、 deconstructing Chanel No. 5 を掲げました。直訳すると「シャネル5番の分解」

円筒状のカーテンに、シャネル5番の重要コンポーネントを別々にぐるっとスプレーします。理論的に推論すれば、真ん中に立ったときに、「シャネル5番」のトータルな匂いが嗅げるはず。そして、カーテン沿いに歩けば単独の匂いが嗅げるはずです。音楽に例えれば、トータルな匂いが「ハーモニー」で、それを構成する単独の匂いが「トーン」です。そんなズーム・イン/アウト的な嗅覚体験を観客に楽しんでもらう、というインスタレーションです。

このアイディアは、初代バージョンのOLFACTOSCAPEを大阪で展示したときから抱いていました。そして、イベントに関するミーティングが2月上旬にあり、このアイディアをちょこっと話したところ、キュレーターが「それ、やるのにいくら必要?」と前のめりに・・・(笑)キュレータのハンサムで素敵な笑顔にすっかり口説かれてしまい、アイディアを検証するためのプルーフ・バージョンも作っていないのに、やることになってしまいました。

ワーク・イン・プログレスを見せる目的のイベントだったため、完成品ではなくてもよい。(時間もお金もかけられない。)けれども、観客にもある程度、きちんと体験してもらえるようなものを作ろう。そんな微妙な緊張感の中の制作となりました。

「あのシャネル5番を分解するんだってさ」という話題が話題を呼び、オランダの国民紙的な新聞にも掲載されてしまう始末です。作品はまだ「机上の空論」」だったのに・・・ (笑)ロッテルダムの他のトークイベントでもプレゼンをしました。地元色の濃いイベントなのに、唯一の東洋女性であるわたしは、明らかに異色・・・。




イベントでは3人のアーティストがプレゼンをしました。1人はベルリンから、1人はロンドンから来たアーティストです。私は日本人とはいえ、ジモティーでしたので、友達がみんな来てくれて、ちょっとしたパーティ状態。顔見知りばっかりでした。(実はこのイベントのオーガナイザーであるV2という団体には、学生時代の1998年から出入りしており、私はそのファミリーみたいな内輪の人間なのです。)


■デモンストレーション

私はプレゼンで、作品の説明をするとともに、こう述べました。

「人間には2つの鼻の穴がついています。それは無意味についているわけではありません。犬のように、クンクンしてみると、けっこう匂いの発生源に行き着くのです。犬も、右に移動したり左に移動したりしながら、匂いの強度を探って、発生源に辿りつきます。鼻は耳にもちょっと似ていますね。ですが、それを体感する機会はありませんので、この空間で「嗅覚のステレオ体験」をしてみてください。この空間内ではぶつかるものは何もありませんので、安心して手を使って壁伝いに歩いてください。」

被験者に空間の中に入ってもらい、実際に壁伝いに歩いてもらいます。

「いま、ローズの匂いがしますよね。では右にちょっと移動してください。ミュゲの匂いがしてきます。しましたか? では、また左に戻ってください。そして、ローズと、ミュゲの匂いが均等に混ざる点を探してください。」



被験者は見事に、ふたつの匂いの「見えない境界線」を当てました。その境界線は、私にだけ見えるシークレットの境界線です。

「嗅覚と聴覚を比べてみましょう。聴覚の場合、音源から遠いほど音が小さく聞こえ、近づくにつれてその音量はきれいなグラデーションを描きます。しかし、嗅覚の場合は どちらかというと、ON or OFF 的なのです。閾値を超えると、それが認識できる、つまり、「嗅げる」。ですので、私がローズの香りをハッキリと嗅げるのは、ココの地点(壁から20cm以内)です。ですので、壁から離れて、あらゆる匂いが混ざる中心エリアも楽しんでみてください。そのため、空間に入るのは、1人か2人のグループにしてくださいね。」

体験した人の感想を聞くと、「人生で初めて覚えた感覚」など、とても熱狂的な感想をいただきました。「ムーブメント(自分が主体となって動く事)と、匂いを嗅ぐこと。そして、目を閉じて手を使って空間を探ること。トータルで五感的なセンセーションが体験できる、素晴らしい作品」と、ある匂いのアート専門のキュレーターが高い評価をしてくれました。


詳細はこちらへ(英語):
http://www.olfactoryart.net/index.php/olfactory-news/14-olfactory-news/109

(Caro Verbeek 嗅覚のアート専門のキュレータ、批評家)

(作品を体験するために待つ、長蛇の列が・・・)


V2というメディアアートで有名なスペースが、なぜ嗅覚のアート?!

あるイギリスの若者への調査で、「スマートフォンと嗅覚、失うとしたらどちらがいい?」と質問したところ、後者を選んだ人が多かったのだそうです。それを受けて、「現代において、ソーシャライジングすることがとても重要となっているが、ソーシャルネットワークを失ったとしても嗅覚を維持する事のメリットって、なんだろう?」というのがこのイベントの問題提起でした。



個人的には、V2という場で発表できたことが大きな区切りとなりました。嗅覚のアートを始めた当初から、ずっと意識していたし、目標としていたからです。というのも、それまではメディア・アートの世界にいた私が、電気もコンピュータも使わない、しかも嗅覚という、アート界では部外視されていた感覚に取り組み始めたので、いささか周囲を驚かせたのです。でも、「いつかは、V2などのようなメディア・アート系も、私のこの動きを理解する日がくるだろう」とずっと信じてきました。現在の「嗅覚のアート」はこれまで、クラシカルな美術界の中で語られてきましたが、メディア・アート界にも認識される日がようやく来た。それは私の個人的なヒストリーの中で、とても大きなできごとです。

思い起こせば、 V2との関わりは1996年から始まりました。私の師匠であった教授が、「ちょうどオランダのV2というところで展示をしきたよ」と、そのフェスティバルのビデオを見せてくれたのです。その雰囲気が、オトナかっこよくて痺れました。それから様々なプロジェクトで、いろんな立場でV2とは関わってきました。最初はこの教授の教え子として半ば強引に押しかけ(笑)、その後は駆け出しの作家として、日本語の翻訳者として、友人として、作家の妻として、キュレーターとして・・・etc。もうここのスタッフは、ちょっとファミリーみたいな存在です。


■なぜシャネル5番を選んだの?

この質問をよく受けます。

(1)前のプロジェクトで使ったのが余っていたから、参考として使えた
(2)調香のサンプル・フォーミュラが手に入った
(3)オートクチュール・デザイナーであった叔母が使っていたのがシャネル5番で、私の人生に最も影響を与えた香水として、私も実際に使っているので。
(4)シャネル5番が、香水の歴史から見た場合、現代の模範的な香水であるから。

シャネル5番が現代の模範であることには、理由があります。化学技術の進歩により20世紀初頭にもたらされたアルデハイドという合成香料が、当時の常識以上の濃さで使われた、初めての香水だからです。一説には、調香師のアシスタントが、その濃度を10倍に間違えてブレンドしてしまい、それが以外に面白い結果を生んだ・・・というのがシャネル5番の伝説となっています。その後、マリリン・モンローなどが「裸になってもシャネル5番は着ているわ」と発言し、シャネル5番の伝説的なイメージを確かなものにしたことは、皆さんもご存知のとおりです。


■リンク

Smell_This
http://www.v2.nl/events/test_lab_smell_this

OLFACTOSCAPE
http://www.v2.nl/archive/works/olfactoscape

olractoryart.net 上に掲載された、Caro Verbeek によるレビュー 
http://www.olfactoryart.net/index.php/olfactory-news/14-olfactory-news/109



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