オランダの美術大学にて、リモートで抽出のWSをやりました
先週、オランダの美術大学(Willem de Kooning Academy, Rotterdam)にて、4コマ分(計6時間)のオンライン授業を3年生と4年生対象にやりました。オランダに在住していた頃、この美術大学でも教えた経験を持ちます。
Digital Craftというマルチメディアコースの一環で、香りを素材として扱うワークショップでした。10年ほど前に教えた生徒が今は先生になっており、当時のwsがおもしろかったのでぜひにとの要望でした。
4コマのうち、2コマはセオリーで自宅Zoom、残り2コマは学校のワークショップスペースに来てもらい、各々選んだ匂いを素材から抽出して、簡単なフレグランスを作るというものです。すべてZoomです。
ロッテルダムは折しも感染者数の倍増で、部分的ロックダウン中。Zoom講義の授業にも体調が悪いとか、現在検査待ちという生徒がけっこういました。そのため翌日のリアルワークショップは、学校に来てもいいし自宅でも受けられるよう指示しました。幸い、スーパーでも材料が揃い、キッチンでもできるという内容のワークショップです。
全体を通して、経験したことをメモしておきます。
■スライド部分は、英語はきつい
最初の30分は私がいろんなところで見せている自己紹介的なスライドです。慣れているはずなのですが、相手が見えない中、英語でおしゃべりするのは、ロボットに話しかけているようで、のれんに腕押しというか、空回りしているように感じてしまいました。もともとネイティブではない英語。相手がいるからこそ、その目が真剣だからこそ、こちらも言葉が出てくるもので、、、。これまではこの「情熱」とか「身振り手振り」でカバーしていた語学力が、オンライン上ではカバーできない(特にスライドだけを画面に出してしまうと。)スライド部分は、テキストを準備して、手短に録画する(さらに、できればネイティブにナレーションしてもらう)くらいの方が良いのだと知りました。
こんな状態でしたが、生徒たちは興味関心があるのか、真剣に聞いていてくたのがありがたく申し訳なかったです。ほとんどの生徒が顔出しで聞いていてくれたので、そういう教育がされているのかもしれません。質問があったらチャットボックスに入れてね、と指示していましたが、オランダの学生はあまりチャットボックスを使いません。Q&Aでは自ら積極的にミュートを解除し、さまざまに質問してくれました。日本の大人しい学生とは違うように思います。
■学生ひとりひとりに喋ってもらえばいいと気づく
ちょっと長めの休憩を挟み、その間に、前の週に出しておいた「宿題」をチャットボックスに提出してもらいます。「この数日間、生活の中で嗅いで気づいた匂いをリストに挙げなさい」というものでした。それをもとに次の1時間は授業を進めます。生徒一人ひとりに、自分の体験と分析をしゃべってもらうのです。私はあいづちを入れ、「それは、どうしてそう感じたの?」など、誘導するだけ。生徒との会話が聴覚に凝縮されるので、パーソナルに向き合ったお話ができているように感じ、ここにオンラインの特性を感じました。私自身があまりしゃべらなくて良いのも楽ですし、これはいいなと思いました。
また休憩を挟み、「実習で抽出したい匂いを考え、チャットボックスに書き込んでおいてください」という指示を与えます。次の1時間もひとりひとりにしゃべってもらい、それに対して私が打ち返しをします。このようにしてあっという間にセオリー部分の3時間は過ぎました。ほんとうはセオリーの教科書的スライドも用意していたのですが、ダイアローグの方が適していると判断し、教科書はメール配布しました。
■大事なのはセーフティ・プロトコル
翌日の実習ワークショップ部分は、学校に来てやることが前提でしたが、自宅隔離中の生徒も多かったので、自宅でできるように予め指示を出しました。そのため気を使ったのはセーフティ・プロトコルです。現場にいれば、私が目を配れるけど、それができないので、 身の安全を守るために細かく指示し、理由も説明します。
当日は最初の20分くらいかけて、最後までの行程をぜんぶ説明し(図も使いながら)、頭に入れてもらいます。現地では私がプロジェクターで映し出され、私の声がスピーカーで届くようになっています。マイクもPCの前に設置してもらいました。作業開始後、あとは現場の流れにまかせます。個別の指示はPCのマイクの前に来てもらって行います。
■リアルとオンラインのいちばんの違いは、「香りを嗅げない」こと
香りを扱うのは、ほとんどの生徒は初めてで、不安でいっぱいです。なので、リアルな現場では、とにかく頼られがちです。生徒が興奮しながら「先生、嗅いでみて!」と持ってくるので実際に嗅いで共感してあげたり、「こんな感じでいいの?」という質問にアドバイスをしてあげたりするのが当たり前だけど、この場合、なかなかそうはいかない。
結果として生徒は、自分の力で考えて制作にあたり、その結果を冷静に分析し、私という第三者に伝える「レポーター」の役割も担うことになります。
つまり、私は講師として「香りを上手に抽出する手助けをする」という役割ではなくなり、純粋に「生徒が自ら行う試行錯誤を見守る」役割になります。
■香りを言語化する
抽出後の香り、どうだったか、私に教えて!と報告を頼みました。ひとりずつカメラの前にやってきて、うまくいったとか、いかなかったとか、話してくれます。時には「それって、どういうこと?」「例えるとしたらどんな香り?」と踏み込んで質問します。香りを言語化する。それは大変なこと。フードレポーターが「美味しい!」だけでは足りないのと同じです。生徒は自分自身の言葉で、捉えようのない香りというものを表現しようとしていました。大切なことです。美術の世界でも、言語化により、クリティシズムが成り立つわけですから。
デジタル技術との親和性の悪い「香り」というものを、オンラインで教えれるのだろうか? 最初はそんな疑問もありました。しかし生徒自身の成長を考えた時に、オンラインのある種の冷たさ(遠隔でしかサポートできない、匂いにより共感することができない)が、良い具合に働くなと思いました。アカデミックなコンテキストでの香りのワークショップは、もともとエキスペリメンタルなため、コンセプトやプロセス重視ですが、生徒がよりプロセスとその結果を表現することに責任を持つということが明確になりました。
Thank you Ivan for supporting us!
抽出した香り:
[the 3rd year]
pencil shavings
baklava
fake leather
muffin
muffin skin
apple skin
croissant
potato chips
peanut butter
[the 4th year]
bay leaves
leather shoes
chestnut
thym
matches
baked bread
sand/mud
antique book
carrot
seaweed
ginseng candy
banana leaf
baklava
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