香り & SDG's
アーティスト・ステートメント
マツダ100周年記念(パリ)にて
この場に招待していただき、新作をコミッションしていただき、マツダ・フランスとエージェントの方たちに深く感謝しています。
私は2005年より、嗅覚アーティストとしてオランダで活動を始めました。今ではこの領域はコンテンポラリーアートの中でも注目を集めており、その中でも著名なアーティストの一人と言われています。
わたしの長いキャリアの中でもこの作品は、エピデミックな作品です。それは、地球温暖化というグローバルな社会問題に初めて斬り込んだからです。
気候変動は世界的に深刻な問題です。9月半ばなのに、パリはなんでこんなに暑いのでしょう?
地球温暖化問題に対して、匂いは何かできるだろうか。たとえば匂いで、暑さや寒さの感じ方を少しでも緩和できるのだろうか。この問いをスタート地点にしました。
作品のタイトルは、「パリ協定のための匂い」です。
サイエンティフィックなデータを参考にして作った冷感フレグランスと温感フレグランスを、同じ気温になるようにコントロールしてある2つの空間それぞれに、噴射しています。
みなさんは、この小さな実験の証人であり、実験台でもあるわけです。
データについてはシカゴ大学のサイエンティスト、Jas Brooks にアドバイスを求めました。三叉神経やTRP受容体に関する論文も読みました。
興味深いのは、調香のように、香料同士のバランスが大切だということです。冷感にも温感にもなり得る香料もあります。たとえば、Methyl Salicylate という香料は、両方の感覚に働きます。これは湿布によく使われる香りです。ブラックペッパーと組み合わせると温感に働き、ユーカリプトールやメンソールと組み合わせると冷感に働きます。
最終的な調香には以下の香料を使いました。ほとんどが合成香料です。
(Cool)
menthol
eucalyptol
thymol
citral
cinnamaldehyde
methyl salicylate
linalool
(Warm)
Black pepper
Camphor
Eugenol
Red Chili Extract(self made)
Methyl Salicylate
面白いことに、冷感フレグランスに使った、linalool や eugenol, cinnamaldehyde は、パフューマリーでは暖かい香りとされています。ここが科学とアートの異なるところです。今回は忠実に科学に従いました。
冷感フレグランスの中心的なMentholは、25℃以下でしか働かないのも興味深い点です。今回は、25度以下にするのが難しいので、冷感の部屋がうまく機能していない可能性があります。この時期のパリがこんなに暑くなるとは思ってなかったので…(気候変動ですね)
実験ではわたし自身、温感の部屋では喉が乾きました。昨日のゲストは、「コルクのような感じ」とそのドライなフィーリングを表現してました。
冷感の部屋では肺が寒くなったり、汗をかいたところが冷んやり感じるようなこともありました。
匂いは、それが匂いだと感じなくても、粘膜や汗腺などを通じて体内に吸収されています。嗅覚と触覚の交差するところを楽しんでください。
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