嗅覚のための迷路展 総まとめ


総来場者数3,410名。
秋の展覧会平均が1,700人だそうですので、倍の入りとか。
最終日はなんと240名を超える方がいらしてくださいました。(どうりで忙しかったわけだ!)

2019年12月8日をもちまして、清須はるひ美術館での 「嗅覚のための迷路展」終了いたしました。この展覧会の実現にご協力いただいた皆様、ご来場いただいた皆様、そしてお手伝いに来てくれた私の通信教育の生徒の皆様、どうもありがとうございました! キュレーターの藤本奈七さん(写真左)、感謝しかありません。長い旅でしたね、お疲れ様でした。最後に、協賛の山本香料株式会社様には、いつも私のわがままを聞いていただいています。感謝しかありません。

どんな作品を展示しているのかは、あまりアナウンスしていませんでした。「とにかく行って、嗅いでみてよ!」そんなメッセージです。英語ですが、作品概要はこちらです:

嗅覚のための迷路5(新作)
http://www.ueda.nl/index.php?option=com_content&view=article&id=302&Itemid=874&lang=en

嗅覚のための迷路4
http://www.ueda.nl/index.php?option=com_content&view=article&id=305&Itemid=877&lang=en

OLFACTOSCAPE VER.3 - ローズ香の分解 - (新作) 
http://www.ueda.nl/index.php?option=com_content&view=article&id=303&Itemid=875&lang=en

また、展示テキストはこちら↓

[展示に寄せて]
 

追風用意(おいかぜようい)という言葉がある。ひとことでいえば「香りの心遣い」。徒然草の著者・吉田兼好が山里の寺で女性とすれ違ったあと、ふわっと漂ってきたお香の匂いをそう呼んでいる。

その寺の女性たちは常日ごろから、誰かこの香りに気づいてくれるかしらと、着物に香りを薫き込んでいるわけだ。強すぎてもわざとらしいし、弱すぎると気づいてもらえない。さりげなく演出するため、時間と空間を緻密に計算しているところが心憎い。

この場合、特定のターゲットがいるわけではない。そこが、異性との逢瀬の前に香水を振りかけるような利益目的の行為とは異なる。

そう、匂い香りは、その魔術的なパワーから、営利目的で使われることが多い。まあ、そこは産業が積極的に取り組んでくれている。例えば洗濯物の香り。リラックス効果のあるアロマの香り。新車の香り。強い情動により記憶に定着しやすいため、消費行動へと誘導しやすい。

なのでアートでは敢えてそこをやる必要はない。私たちが取り組むべきは、こういった欲や執着から切り離された部分ではないだろうか。

考えてみてほしい。そもそも香りとは総じて、自然界の代謝の産物なのである。花々から発せられる芳香は虫を誘うためだし、動物から発せられるのは縄張りか生殖のため。いわば「信号」に近い。香りは自然界においては、ソーシャル・コミュニケーションを担う大事な機能がある。

こう見ると、人類のために作られた香りはあるのだろうかと疑いたくなるほどである。我々はその自然の恵みをありがたく使わさせていただき、欲や執着を抱く。

しかし、香道や「追風用意」のような、洗練された嗅覚コミュニケーション文化を作って楽しむ知性もある。それは、まだ始まったばかりだ。

この展覧会は、わたしがそう信じ、みなさんのために仕掛けた、「追風用意」空間なのである。

2019.10.11. Maki Ueda 
[鑑賞の手引き]

嗅覚のための迷路 ver.5 (2019 新作)

犬のように、鼻で足跡を辿れるだろうか。そんなふとした疑問から発した作品です。日々、犬の散歩をする中で、犬は人間にはまったく見えない別なレイヤーに生きていることに気づいたのです。それは匂いのレイヤーです。

足跡の匂い、そして糞尿の匂い。それらは豊かな情報を内包しています。個体、性別、そしてその体格。多くの場合は縄張りや生殖を目的とし、犬同士は匂いでコミュニケーションをとっています。

試しに、犬の真似をしてみましょう。あなたはどちらのプレーヤーになりますか。

A: 匂いの足跡をつける人:引き出しの白い台がスタンプパッドとなっています。引き出しを好きなところに持っていき、スリッパに足を入れ、「香りのインク」をつけてください。その後、白い床の上を歩いてください。

B: 匂いを辿る人:クンクン匂いを嗅ぎ、足跡を辿ってみてください。

OLFACTOSCAPE - ローズ香の分解 - (2019 新作)

空間における香りのコンポジションをコンセプトとした OLFACTOSCAPE シリーズの最新バージョンです。OLFACTO = 嗅覚SCAPE = とあるシーン、この2つの単語で作った造語です。今回は、サブテーマとして、  「ローズ香の分解」を掲げました。(過去には歴史的な有名香水をテーマにしたことがあります。)

ローズの花の香りは、数百種類の成分により構成されます。その上位8種をひとつずつ、円筒状のカーテンに噴射しています。目をつむって手でカーテンを辿りながら、そのひとつひとつを追ってください。

そして真ん中に立つと、それらのトータルな香りが嗅げるはずです音楽に例えれば「和音」でしょうか
分解/再構築、ズーム・イン/ズーム・アウト的な嗅覚体験を楽しむための空間です。

「嗅覚のための迷路 ver.4」(2018)

「お花見」がテーマです。日本人はお花見が大好きです。4月にはいちばん立派な桜の木の下で宴を催し、酒を飲みます。桜は夜にこそ、ほのかに匂いますね。真っ暗な闇で、その仄かな香りをたどって桜の木にたどり着けるかどうか、、、そんな迷路を再現しました。

この迷路には、3本の見えない桜の木があります。匂いの強い方向に進み、見つけてください。

匂い物質と知覚の強度の関係について、ヴェーバー−フェヒナーの法則が知られています。 匂いの強度をI、匂い物質の濃度を Cとすると

I = a log C

で表すことができるというものです。この場合、は各香料固有の定数です。たとえば匂いの強度を2倍にするためには、香料の濃度を10倍にしなければならないことを表しています。また逆に、匂い物質を90%除去しても、匂い強度は半分にしかならないことも同時に示しています。この法則を応用しました。

よって「桜の木」に近づくと、匂いが対数的に強くなります。3本見つけることができるでしょうか。

答え:(手前から向こうへ1行2行、左から右へ1列2列と数えたとき) 
4行3列目
9行4列目
15行3列目


コメント