「おめでとう」を花の香りに託して

仕事のために私は、よくアンティーク・ブックショップに足を運びます。そんなに頻繁にお目当ての香り関係の本が見つかる訳ではないですが、特に戦前の1920年あたりの調香師用の本などが手に入ったらもう、1週間はウキウキ・ウハウハです。ヨーロッパは現代香水発祥の地。そういう財産がたまに身近なところに転がってるのです。

そんなものを時々入手しておいてくれる、近所のアンティーク・ブックショップ。そこのマダムはおそらく、私の母と似たような歳かと思われますが、そんな歳を感じさせない艶のある声や仕草。そのせいか、お客さんには圧倒的に男性が多い気がします。(笑)

話題がそれました。先日は何気なく古いポスト・カードの箱を手に取ってパラパラ見てみました。そして、ひとつのおもしろい事実を発見したのです。

誕生日などに送る「おめでとう」カードには必ずと言っていいほど、花か何かそのような、香るものが描かれているのです。


手紙と薔薇の花

スズラン。



誕生日や記念日などに、「おめでとう」を届けたい。そんなときにオランダ人はよく、花束にその気持ちを託します。それは今も昔も変わりません。現代のオランダは、温室栽培技術の発達により、世界一の花マーケットを有することから、生花が驚くほど安い。花束片手に自転車をこいで帰宅する人をよく見かけます。しかし当時は、生花は贅沢なものと考えられていたようです。遠くにいる人には花束が送れないから、せめて絵や写真でもいい。そういう気持ちが、こういった図柄に表れているのでしょうね。



これは1920年代のカード。"HARTELIJK GEFELICITEERD" はオランダ語で、「心より、おめでとう」の意味。


女の子がお花畑でお花を摘んでいます。そのシチュエーションを相手に想起してもらうことを前提としてる絵なら、そこに描かれているのはただの「花」ではなく、花の「匂い」なのかもしれませんね。



こちらはカードの裏面。



さて、このカードを見てまたさらに考えてしまいます。

シャネル5番、薔薇の花、それとコニャック、ネックレス



まるで中世のヴァニタス画や静止画のような写真です。ここに描かれている香水やコニャックは、「おめでとう」を伝えるためのアイテムには違いないのですが、もうちょっと深い意味がありそうです。

私の解釈はこう。シャネルの5番と薔薇が嗅覚を意味し、コニャックのボトルが嗅覚と味覚、宝石のネックレスが触覚。いずれも、歓楽的で感覚的なもの、贅沢なもの、そして生の歓びに繋がるものです。プロテスタント的には「悪」として敬遠されがちなこれらの嗜好ですが、おめでたい時くらいはまあいっか、ということなのでしょうね。

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