ありそうでなさそうな、なさそうでありそうな匂い

先々週は「旧東独秘密警察が集めた人民の匂い」のカタログ用を作り上げ、こんどはNYとイギリスでの展覧会用の匂い作りです。匂いカートリッジなるものにこの香水を入れて、展示するのだそうです。

匂いのパレット作り、抽出作業がようやく終わりました。









旧東ドイツの秘密警察 Stasi が集めた人民の匂いがテーマであることは以前にも書きました。Stasiはナチス時代のゲシュタポのように、東西冷戦時代に東西双方に恐れられていたといいます。人を呼び出しては椅子に座らせ、人の匂いの染み付いた生地を瓶に入れて保存し、有事の時にはこの「人民の匂いコレクション」からサンプルを選んで犬に嗅がせ、足跡を辿らせるのです。

この同じ手法が2007年5月にドイツでサミットが開かれた際に使われ、テロ容疑のかけられた人々の匂いをドイツ警察が事前に収集したということで、物議を醸しました。いったいこれを個人情報として見なしていいのだろうかとか、プライバシーの侵害なのではないか、等々。

私はこのような「Stasiにスパイ容疑をかけられたあるドイツ女性」を想定して創香しています。

さらにちょっと踏み込んで、私の目指すところを説明してみます。

匂いや香りを絵画のように、「写実主義」と「抽象主義」とふたつの大まかな分け方で考えたとします。

「写実主義」は、実際の匂いをそのまま写し取り再現することといえます。家の匂いでも人の匂いでも、現代の分析機器を使えばけっこう分析でき、実際の匂いに限りなく近く再現することは可能です。

「抽象主義」はたとえば「ある春の朝、海岸を裸足で歩いている」などのテーマを、創香者が独自に解釈し、エンコーディングしたもの、とも言えるかもしれません。私たちが慣れ親しんでるいわゆる香水は、ほとんどこの部類に入ると思います。

私が目指しているのは、写実主義でも抽象主義でもない、その中間なんです。簡単に言うと、実際にありそうでなさそうな、なさそうでありそうな「ある白人女性」の匂い。(この展覧会のタイトルもそういえば、 if there ever was でした。)

写実主義に寄り過ぎるとどうしてもナマナマしすぎて「あ、やっぱりね」で終わるものになってしまうだろう。抽象主義に寄り過ぎても嘘くさくなりそう。生な人間の匂いでありつつ、イマジネーションへの余白は残しておきたい・・・。

そんなところで、お楽しみに。

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