インタビュー Q&A

清須はるひ美術館での内覧会には、たくさんのプレスにお越しいただきました。以下そのQ&Aです。

▪️匂いのアートを始めたきっかけは?

もともとアートとサイエンスの交わるところに興味があり、大学ではメディアアートを専攻したのですが、その延長として始めました。

出産した2005年ごろ、嗅覚が鋭くなる時期があって、おもしろいなと思って。これでアートをやったら、いずれ脚光を浴びる時代が来るだろう、とその時から想定していました。

実際、今回は日本では初めての、公共の美術館が嗅覚芸術を看板に掲げる展示です。私にとってももちろん、公共美術館での初展示ですが、いきなり初個展。いろいろ「初」で、歴史的なできごとだと思っています。

▪️嗅覚芸術って、なんですか?

これは何の香りか、というのがテーマではなく、我々がどう感じるか、つまり嗅覚が主役の展示です。嗅覚は、主観的で曖昧な感覚だからこそです。つまり、香りのアートではなく、嗅覚アート、嗅覚芸術です。香りのアートだと、香りが主役になってしまうでしょ? もちろん世界的にもほかにそういう作家はいないので、私が言い出しっぺなようなものですが。

主観的で曖昧な感覚だからこそあえてこの展示では、みなさんの期待する「記憶とのつながり」という部分を省きました。昔は、香りで私のパーソナルな世界観を提示する作品を作ってた時期もありましたよ。でも、日本の香りの風景をテーマにしたAROMASCAPEという品をオランダで展示をしたときに、「わかめとジャガイモの味噌汁」の香りを「うちの地下室が洪水に遭って、腐ったときの匂いだね」と表現したひとがいて。この全く曖昧な媒体でじぶんの世界観を表現するのは、卑怯というか、作家として芸がなさすぎる、と思うようになりました。

▪️香料ってなんですか

すべて自然界からのギフトといえます。蒸留して精油を抽出します。これを天然香料と専門家は呼んでます。さらにその単体成文(分子)を別々に取り出して、合成香料と呼びます。それは液体のときもあるし、粉末や結晶のこともある。

そう、香料は、分子名で買えるものもあるんです! (もちろん専門家の間だけですけどね。)今回の作品 OLFACTOSCAPE は、それを現実空間に出現させたものです。

自然界は自分を病から守るため、そして生殖のために、香りを産出します。人間はそれをありがたく使わさせていただいていますが、本来ヒトのために産出された香りは自然界にはありません。

▪️展示にこめたメッセージは?

一切ありません。あるとしたら、嗅覚の可能性を楽しんでくださいということ。

匂い・香りは簡単に、人を癒しもできるし、不快にもできるし、殺すこともできる。だから匂いに「平和」などのメッセージを込めた展示やプロパガンダは、簡単に注目を浴びることができるので、作家としては芸がないと考えてます。特に美術館では野暮というものです。

ここでは、知的な、粋な遊びを提供しています。嗅覚文化を開拓していくようなイメージで。

みなさんへのメッセージがあるとしたら、ぜひ実際足を運んで、体験してくださいということ。わたしたちはよく写真を見て、そこに行った気になっていますが、この場合、写真からはその手がかりさえつかめないはず。「インスタ映え」とは真逆の作品群。なのでぜひ実際に足を運んでください。

▪️どうやって展示を楽しんだらいいのでしょうか

人それぞれ楽しんでいただければよいのですが、おすすめはグループでの来場です。他者と感じ方が違って当たり前なのが、嗅覚です。他者がいて、ようやく自分の嗅覚の在り方がわかる、といった部分があります。なので1人よりは2人、2人よりは3人がおすすめです。

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