家事・育児で感性を磨く

junkstage.com 2011年6月19日 投稿

私の仕事領域である匂いのアートは、匂いを素材として「新たな体験を提供するアート」です。匂いは五感のなかでも最も直接的・本能的・感覚的な感覚です。それだけ、提供する体験も強く斬新なものとなるはず。

じつは匂いを素材として扱い始めたのは、出産して多忙になり、時間がないことへの焦りからでした。母となる前は「じぶんの時間100%」で生きていたようなもので、とくにフリーランスのアーティストである私は、好きなだけ仕事をしてました。そこに突然、制約ができた。集中して仕事できる時間が「細切れ30分が1日に3回」とか、そのくらいです。メールの返信していたら、それでオシマイ。

アーティストとしては駆け出しだったその頃。ようやく、ひとつのビッグ・プロジェクトを成功させたところだったのですが、出産してからは、なかなか発展して行かない。もちろん、仕事する時間が無かったからでもあるけど、意識が積極的に向いていかなかった。当然ながら、意識はすっかりカワイイ我が子に・・・。

そこで、「日常への意識」を高めることで、仕事していない時間も効率良く使えるように務めました。具体的に言えば、遊びの中で子どもを観察したり、発生学的なものを勉強してヒトの五感の発達を学んだり。あたかも自分も赤ちゃんのような「まったく世界を知らないまっさらな状態」であるかのように想定して、ビー玉を転がしてみては、「ア! 転がってる! どこに行くのカナ?!」と子どもと一緒に驚いてみたり。

こう冷静に書いてみると、ほんとヘンなお母さんですねえ・・・(^^) でもま、赤ちゃんのお母さんて多かれ少なかれ、そんなふうに赤ちゃんに同調するものですよね?

こんな生活の中で、あるきっかけがあって、コーヒー紅茶専門店での展示制作・展示の話が来ました。バジェットは3万円程度の、ローカル・地域振興を目的とした内輪的な展覧会でした。私は、その店に並んでいるものの「お品書き」を匂いで作る、という作品を作りました。つまり、「匂いでメニューを作った」のです。これが忘れもしない私の匂いの作品第1号となりました。確か子どもが1歳の時です。

私はその頃、主婦ほぼ100%。赤ちゃんと蜜月な、じぶんたちの世界な日々。赤ちゃんには日本語で話しかけていたため、スーパーで「あ、ここはオランダだったっけ」と気づくような、閉じ籠りの日々でした。そもそも外界との接点がないので、オランダ語を使う必要もない。そこで、このコーヒー紅茶専門店での作品制作・展示の話が来た時、思ったのです。「オランダ語のメニューって、読むの面倒だなあ・・・」そこで、「じゃあ匂いだけで本能的に好きなコーヒー・紅茶がわかるような、そんなメニューを作ってみようかな」となったわけです。

そう友人に話すと、その友人が蒸留法の手ほどきをくれました。「なんだ、これって普段の料理と似てる」とヒントを得てからは、この視線から料理本をくまなく漁っていき、インスピレーションを得るようになりました。今でも料理本、とくに古典、年代で言うと1950年以前のレシピ本をアンティークショップで漁るのが大好きです。その頃の調理法は、食材やお料理をいかに保存するかという観点から直感的・経験的に組まれています。化学(科学)の鍵がたくさん散りばめられているのです。

そのようなわけで、「あ、こんな体験をつくりたいな」とか、「これ、おもしろいな。もうちょっとリサーチしてみようかな。」というインスピレーションを得るのは、50%くらいは料理をしている時です。

家事は、面倒です。料理したらハイ終わりではない。食器や器具を毎回洗わないといけないし、家族が汚した服や部屋をいちいちキレイにする、その繰り返しです。でも、家事から見えるものがたくさんある。スーパーでの買い物からも、世の中が見える。禅の修行のようでもありますが、なるべくそういうふうに感覚・感性を磨き続けていこうと、日々試行錯誤しています。








コメント

wansae さんの投稿…
まきさん、すごくいい文章ですね〜。未だに焦る最中にいる私にとって、とても励みになります。私もいつかまきさんみたいに何かを極めていきたいと思っています。また会いたいな〜