あるアーティストのことば

今日、哀しい知らせが届きました。

わたしが敬愛する、あるアーティストが、亡くなったとのこと。

この哀しみをどこにどうやればいいのだろう・・・と思い、ここに彼から受け取ったものを書こうと思いました。



ズビグニエフ・カルコフスキー。わたしが知る限り、世界一といってもいいくらい、自由で、純粋なアーティストでした。


彼の生き方に触れた人はみんな、そう言うでしょう。


実験音楽の世界では、世界的に名の知れた人です。何も持たず、いつもツアーで演奏しながら旅をし、かならず東京の恋人のところに戻って来る。そんなふうに、ビザ無しで東京に10年以上暮らしていたでしょうか。

いつもアングラな世界で、じぶんに素直に、生きていた。

まるで子どものような人で、じぶんにも他人にも、純粋で、正直だった。その点において、厳しい人でした。



もうかれこれ10年以上前になるでしょうか。彼らの中野の家に泊まった翌朝、「今日は××しなきゃ〜。(××の内容は忘れましたが)」と言うと、「マキ、アーティストにはな、must とか have to てものはないんだよ」と言われたのでした。

このひとことに、ハッとしました。アーティストの仕事には、自由が前提にある。アイディアの自由。感性の自由。表現の自由。その中で、じぶんがやりたいことだけをやるのが使命なのだ。

そのためには、生活のための必要最低限のお金が必要だし、時間だって必要。だから、たとえレジ打ちのアルバイトだって、「must」ではなく、喜んでやるものなのだ。

彼のこのことばは、私がアーティストとして、いや、ひとりの人間として生きて行く基本姿勢になったのでした。



ガンが発覚したのもつい最近だったらしいのですが、

彼にはもちろん健康保険などあるはずもなく、それでも医療を受ける手はずが整った時には手遅れで、

ペルーのジャングルにシャーマンを訪ね、そこで独り、旅立って行った。



ありきたりな追悼の言葉など、彼なら要らないと言うでしょう。悲しんで泣いていたら、笑われるでしょう。

彼のためにできることは、今を精一杯生き、表現し続けていくことしかないのかもしれない。

明日の保証なんて、どこにもないのだから。彼からもらったインスピレーションを、私なりの形で、他の人にもバトンのように渡していこうと思うのです。

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