[匂い日記] 哀しげなクリスマス・ツリー
日本からロッテルダムに戻り、時差ボケが明ける頃。あるアトリエ・コンプレックスから展覧会のレセプション兼新年会の招待状が届いた。このコンプレックスには日本人がよく滞在するのだが、今回も日本人の展示だった。
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展示空間は寒かった。もともと寒い部屋なのに、なぜこの作家はこんなに寒々しいものを作るのか、と思った。でもこの飛行機の形は見たことがある。御巣鷹山に落ちたあの飛行機だ。
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この作家の目的はただ寒々しいものを作ることではないようだ。伯父さんをこの事故で亡くしている。つまりこれは彼なりの弔いなのだった。
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その作品のように静けさと温もりを漂わせる山田健二くん。世界は狭いもので、むかし私が教えていた学校の卒業生なので、共通の知人も多い。
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クリスマス・ツリーはたぶん森を表現するための道具として使われたのだろうけど、これがまたいい匂いを発していた。そのため展示空間はしんとした森の静けさを上手に漂わせていたのだった。
オランダでは12月中旬になるとあちこちの街角で大小のクリスマス・ツリーが山積みで売られる。これら樅の木はクリスマスまでの短い期間、綺麗に着飾られ、人々の視線を一斉に浴びる。クリスマスが過ぎると誰にも見られなくなり、新年になるころにはゴミの日にまた山積みにされる。私にはそれがいたたまれなく思え、これまでツリーを買えずにいた。
今年はもうすぐ5歳になる子供にせがまれて、鉢植えの小さなツリーを買った。それさえも日本に帰省していた間に枯れてしまった。ちょうどこのツリーの処理をした矢先の展示だった。
クリスマス・ツリーとして使われなかった樅の木の、その哀しげなこと。でもその匂いによって、じぶんの存在を主張していた。
我が家のツリーも同じだった。ゴミに出そうと思ってたら、まだ匂いは健在だった。なので、いつか薫香に使えるように、細切れにして乾燥させ、保存しておくことにした。
このアトリエ・コンプレックスはロッテルダム市のゴミ処理場の隣に位置する。アトリエの住人によると、たくさんのクリスマス・ツリーが焼却される今の時期、なんともいい匂いが漂ってくるのだそうだ。どんな匂いか嗅ぎたい? と、樅の木の幹をひとつ、暖炉に放り込んでくれた。
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この匂いはワインをいっそう美味しくした。燃えるクリスマス・ツリーは、ここで死んだようにも、また生まれ変わったようにも思えた。
展示空間は寒かった。もともと寒い部屋なのに、なぜこの作家はこんなに寒々しいものを作るのか、と思った。でもこの飛行機の形は見たことがある。御巣鷹山に落ちたあの飛行機だ。
この作家の目的はただ寒々しいものを作ることではないようだ。伯父さんをこの事故で亡くしている。つまりこれは彼なりの弔いなのだった。
その作品のように静けさと温もりを漂わせる山田健二くん。世界は狭いもので、むかし私が教えていた学校の卒業生なので、共通の知人も多い。
クリスマス・ツリーはたぶん森を表現するための道具として使われたのだろうけど、これがまたいい匂いを発していた。そのため展示空間はしんとした森の静けさを上手に漂わせていたのだった。
オランダでは12月中旬になるとあちこちの街角で大小のクリスマス・ツリーが山積みで売られる。これら樅の木はクリスマスまでの短い期間、綺麗に着飾られ、人々の視線を一斉に浴びる。クリスマスが過ぎると誰にも見られなくなり、新年になるころにはゴミの日にまた山積みにされる。私にはそれがいたたまれなく思え、これまでツリーを買えずにいた。
今年はもうすぐ5歳になる子供にせがまれて、鉢植えの小さなツリーを買った。それさえも日本に帰省していた間に枯れてしまった。ちょうどこのツリーの処理をした矢先の展示だった。
クリスマス・ツリーとして使われなかった樅の木の、その哀しげなこと。でもその匂いによって、じぶんの存在を主張していた。
我が家のツリーも同じだった。ゴミに出そうと思ってたら、まだ匂いは健在だった。なので、いつか薫香に使えるように、細切れにして乾燥させ、保存しておくことにした。
このアトリエ・コンプレックスはロッテルダム市のゴミ処理場の隣に位置する。アトリエの住人によると、たくさんのクリスマス・ツリーが焼却される今の時期、なんともいい匂いが漂ってくるのだそうだ。どんな匂いか嗅ぎたい? と、樅の木の幹をひとつ、暖炉に放り込んでくれた。
この匂いはワインをいっそう美味しくした。燃えるクリスマス・ツリーは、ここで死んだようにも、また生まれ変わったようにも思えた。
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